Posted 1月 29, 2019
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「スパイダーマン:スパイダーバース」(Spider-Man: Into the Spider-Verse)は、近年公開された映画の中でも、特筆すべき革新的なアニメーション映画です。共同監督を務めたボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマンがSony Pictures Imageworks社に与えた課題は、3Dアニメーションに2Dならではの画面デザインを組み合わせて、2代目スパイダーマン、マイルス・モラレスのストーリーに生命を吹き込むことでした。つまり、Imageworksは既存のアニメーションパイプラインを変えて(時には「壊して」)、制作に臨む必要があったわけです。同社がCGIに使用したのは、Houdiniを含む現行のメインツールでしたが、そのアプローチにはいくつか新しい方法が取り入れられました。チームの主要メンバーに、たっぷりと語っていただきましょう。



「スパイダーマン:スパイダーバース」予告



手描き感覚のCGソリューション

「スパイダーマン:スパイダーバース」の監督たちは、コミックブックのコマをスクリーンに落とし込んでストーリーを伝えたいと考えました。これはある意味、Imageworksがこれまで手掛けた作品の逆を行く考え方です。アニメーション映画と視覚効果のどちらについても、今まではフォトリアリズム、少なくともマテリアルフォトリアリズムを追及してきました。今回彼らは、その概念から離れるよう求められたのです。

プロダクションデザイナー、ジャスティン・トンプソン氏との初回のミーティングの段階ですでに、彼が新しい方向性を模索していることがはっきり分かりました。彼が目指していたのはリアリズムではなく、高度にデザイン化されたコミックブック言語です。私たちは、全編を貫くコミックブック調のスタイルに馴染むエフェクトをデザインする必要がありました。

パヴ・グロホラ氏 | FX スーパーバイザー

ImageworksのFXスーパーバイザーであるパヴ・グロホラ氏はこう語ります。「プロダクションデザイナー、ジャスティン・トンプソン氏との初回のミーティングの段階ですでに、彼が新しい方向性を模索していることがはっきり分かりました。彼が目指していたのはリアリズムではなく、高度にデザイン化されたコミックブック言語です。これは、私たちエフェクト部門にとっては大きい意味がありました。私たちは、全編を貫くコミックブック調のスタイルに馴染むエフェクトをデザインする必要がありました」 



映画のひとコマ。たいていのシーンが、このフレームと同じように、マテリアルとエフェクトの組み合わせで構成されている



とはいえ、エフェクトにシミュレーションを使っていないわけではありません。グロホラ氏は、現実を次のように語っています。「シミュレーションアルゴリズムだけで、デザインすることなど絶対に不可能です。そのうえ、フォトリアリスティックシミュレーションは映画の言語に馴染みません。Houdiniなら、エフェクトを簡単に操作できます。おかげでデザインをしっかり詰めることができました」

グロホラ氏は続けます。「Houdiniは、問題解決にツールボックス手法を採用しています。技術的な課題を解決するためのツールがその時には存在していなくても、ツールを手軽に構築するための材料はすべて、Houdiniが提供してくれます」 

このような理由で、Imageworksは現在でもHoudiniを使って斬新なエフェクトを作ろうとしています。「スパイダーマン:スパイダーバース」のエフェクトは、間違いなく型破りです。たとえば、キャラクタや建物の「グリッチ」、「マルチバース」の世界、極度にスタイライズされたリジッドボディダイナミクス、カスタムスプライトシステム、2Dならではのデザイン、3Dモデルのキャラクタに対して「ライン」を強調することなどです。



爆発には2D要素と3D要素を組み合わせ、どれもコミックブックのスタイルを取り入れている



爆発とパーティクルエフェクト

映画には、爆発またはパーティクルエフェクトが使われる場面が数回あります。どれも、3Dと2Dを取り混ぜて雰囲気が演出されています。ImageworksのFXスーパーバイザーであるイアン・ファーンズワース氏によると、エフェクトのインスピレーションは2Dの手描きアニメだとのこと。「最初はシンプルなパーティクルと球体を使って煙や爆発を作り、ソルバやシェーダを使って消えたり膨らんだりさせようと考えていました。見栄えは非常に良かったのですが、「これで行こう!」とはなりませんでした。スタイルまたは手描き感の不足が原因です。いかにも「CG」の雰囲気が残っているのです。時間さえあれば、もっとずっとよくできるはずです。2D FXアーティストに協力を依頼することに決めました」



ある爆発のために描いた、手描きのシェイプ



そのアーティストがアレックス・レッドフィッシュ氏です。彼のVimeoデモのスタイルは、映画に求めている言語にぴったり一致していました。彼はImageworksに、2D FXの再利用可能な小さいライブラリを提供してくれました。最初は爆発からです。ファーンズワース氏は語ります。「必要に応じてどうにでも組み合わせられるように、大量のレイヤーを提供してくれました。3Dステレオの左右の映像では、オブジェクトを奥行き方向にも配置しました。複数レイヤーで、爆発のバリエーションをいくつか提供してくれました。銃口の閃光のシェイプ、火花が衝突するシェイプ、煙、蒸気、炎の要素などです」

Imageworksは、アーティストのために、HoudiniでHDAを作成しました。これで、ライブラリからイメージを選択するだけで、ビューポートにアニメーションをリアルタイムで表示できます。このHDAはまた、レンダリング用に個別のジオメトリを出力します。ファーンズワース氏は語ります。「リアルタイムでアニメーションを表示できるのは、私たちにとっては重要でした。使用する予定のすべてのアニメーションに、スプライトシートを作成しました。これはゲームでよく使われるテクニックで、カードごとにアニメーションのフレームをロードする代わりに、すべてのフレームを含む画像を1つだけロードし、UVを操作してフレームを切り替えるのです」



エフェクトをスクリーン空間で合成



爆発の多くは、2フレームごとのアニメーションを付けてからフルフレームに変え、目的のルックに近付けた



セットアップが整えば、FXアーティストはシンプルなパーティクルシステムを使用したり、必要に応じて要素を手動で配置できます。レンダリングとビューポートはほぼ正確に一致するため、レンダリングや最終的なルックを気にすることなく、要素のタイミングや合成に集中することができました。ファーンズワース氏は言います。「レンダリングは順調でした。高解像度画像パスのためのアトリビュートや、寿命やアルファといったシンプルなアトリビュートを格納しておけば、シェーダでも少しコントロールがききます」

さらに続けます。「2Dアニメーションを参考に、リジッドボディのタイミングを変えて試したり、2フレームごとにジオメトリを出力したりしました。また、2フレームごととフルフレームを切り替えて、独特の「カクカク」した見栄えを演出することもありました。キャラクタアニメーションチームと合わせるためです。2Dアニメーションにちょっとしたタイミングの変更を組み合わせて「パンチ」をつけて、アクションを強調したシーンもあります。また、スタイライズされたパターンやカットを作成するために、ブーリアンベースのカスタムツールをいくつか作成する必要もありましたが、これができるのはHoudiniだけです」



破壊エフェクトには、手続き型モデリングツールを使ってスタイライズされたシェイプを生成。ダイナミックシミュレーションにはBulletとDMMを使用している 



映画の最終バトルシーケンスでも、Houdiniを使用して、Marvelアーティストのジャック・カービー氏から発想を得た「カービードット」で空間のボリュームが埋め尽くされました。ファーンズワース氏は語ります。「これらのシーケンスではFXのセットアップ以上に合成やタイミングの調整が大変でしたが、Houdiniのおかげで実際のイテレーションプロセスはスムーズに行えました。セットアップのおかげで、アーティストはパーティクルの「流れ」を作成および配置した後、内部モーションや気泡をわずか数個のノードで微調整および変更できました。1つのショットが完成したら、そのショットの設定の一部を別の類似ショットにコピーするのも簡単です」



クライマックスの戦闘シーケンスの「カービードット」



グリッチエフェクト

ウィルソン・フィスクというキャラクタが開発した粒子加速器によって、多次元の世界が開かれ、別バージョンのスパイダーマンが私たちの世界にやってきます。そのときには、建物やキャラクタの一部に、大規模なグリッチが起きます。 

ImageworksのFXリード、ヴィクトル・ルンドクヴィスト氏が説明します。「グリッチエフェクトでは、スクリーンをセルパターンに分割して、各セルに代替カメラを割り当てます。たとえば、あるセルはキャラクタの目にズームし、その隣りのセルは90度回転したアングルからのキャラクタの顔になるといった具合です。こうすると、キャラクタが砕けたように見えるわけです」

ルンドクヴィスト氏は続けます。「キャラクタを「一体のものとして扱う」ために、高レベルのコントロールが重要でした。Houdiniを使用して、「代替」カメラの配列とセルパターンの両方をプロシージャルに作成しました。これをカスタムHDAへの入力として使用すると、自動的にレンダリングが始まり、結果のルックをプレビューできます」

キャラクタを「一体のものとして扱う」ために、高レベルのコントロールが重要でした。Houdiniを使用して、「代替」カメラの配列とセルパターンの両方をプロシージャルに作成しました。これをカスタムHDAへの入力として使用すると、自動的にレンダリングが始まり、結果のルックをプレビューできます」

ヴィクトル・ルンドクヴィスト氏 | FXリード


ビルや建物がグリッチし始めると、パラレルワールドが開く



別次元からやって来たキャラクタにも同じことが起こる



Houdiniを使用して、代替カメラのアングルを設定したり、グリッチのセルパターンを生成した



グリッチのかかったビルは、色鮮やかなパターンに包まれる



インクライン

コミックブックのルックは、「インクライン」とも呼ばれる、キャラクタの描線が特徴です。Imageworksは制作の早い段階から、さまざまな方法でインクラインを作成しようと試みました。しかし、トゥーンシェーダなど、「ルール」ベースのインクライン生成手法では、手描きに見えないことがすぐに分かりました。 

グロホラ氏はこう述べます。「根本的な問題は、アーティストは限られたルールに沿って描いてはいないことです。手描きを追跡してキャラクタアニメーションを作るのも簡単でありません。テクスチャマップは使用できませんでした。アニメーションの間はずっと、線画を調整しなくてはなりません。アーティストの線画を取り込んで、土台となるアニメーションに貼り付けると同時に、線画の調整もできる方法を見つけなければなりませんでした」

私たちがたどり着いたソリューションは、Houdiniのプロシージャル機能とPythonのインテグレーションでした。ImageworksのアーティストがPythonスクリプトを実行するカスタムGUIをHoudiniで作成して、ノードを作成、破棄、再接続したり、ツールを変更したり、自動的にネットワーク内を「移動」できるようにしました。 



インクラインをマイルスのCGの顔に追加



マイルスの顔のインクラインの例。キャラクタのアニメーションに合わせて線画が変化する



グロホラ氏は語ります。「アーティストたちは、ツールの機能や使い方といった技術面の詳細を気にすることなく、素晴らしい線画を描くという創造的な作業に集中できるようになりました。ツールは、Houdiniを内部で動かす単体アプリケーションのようでした。ツールを使用するアーティストに、従来のHoudiniのスキルはほとんど必要ありません」 

グロホラ氏は続けます。「私たちはまた、機械学習を使って、前の例に基づいて描画する方法を「学習」しました。これはワークフローを迅速化してくれました。アーティストは機械学習の予測からショットを開始し、必要なところを調整するだけです。どちらもデータ操作が中心のため、Houdiniと機械学習は相性が抜群でした。HoudiniとPythonの緊密な相互作用のおかげで、Houdini内で直接Sklearnを実行できました。学習モデルをトレーニングし、予測はすべてHoudini環境内で直接呼び出しました」

最終的に、インクラインはポリゴンラインとしてHoudiniからKatanaにエクスポートします。アーティストはラインを選択し、レンダリング時にライティングでラインの太さを調整します。

私たちは、機械学習を使って、前の例に基づいて描画する方法を「学習」しました。これはワークフローを迅速化してくれました。アーティストは機械学習の予測からショットを開始し、必要なところを調整するだけです。どちらもデータ操作が中心のため、Houdiniと機械学習は相性が抜群でした。

パヴ・グロホラ氏 | FX スーパーバイザー


Houdiniのインクラインツールを使ってラインを微調整している例



マルチバース、クモの糸、葉、触手など

スパイダーマンたちが私たちのユニバースに現れるときには、「マルチバース」を通過します。この見た目をどうするかについては、さまざまなアイデアが検討されました。Imageworksが落ち着いたのは、プロシージャルに生成したクモの巣状の構造に、多数の点やボリュームが混在した、非常に繊細な環境です。ここでも、Houdiniが使われました。



マルチバースを通過



もちろん、トレードマークのクモの糸がなくては、スパイダーマンではありません。ここでもHoudiniが、特にそのプロシージャルな操作性を発揮します。ファーンズワース氏は説明します。「1つのセットアップをベースにして、スパイダーマンの各種キャラクタの特徴的なクモの糸、隠れ家のクモの糸、あるシーケンスでマイルスを包んだクモの糸など、クモの糸のユニークなバリエーションを簡単に作成できました。マイルスとピーターのクモの糸は非常に細く、中心の糸に数本の糸が、らせん状に巻き付いています。2Dの「エッフェル塔」のようなグラフィックも見えます。それをベースにして、グウェンの糸も作りました。彼女の糸はまるでリボンのようです。パラメータをいくつか調整するだけで、優雅な見た目になりました。隠れ家や「キャラクタを包む」クモの糸は、たくさんの小さなクモの糸と「もつれ」を不規則に追加して作成しています」

クモの糸をショットに組み込むために、アニメータはCFX(キャラクタFX)でも使用することになる「カーブ」リグを使用しました。CFX部門は、ウェブ(クモの糸)のリグを使用してセカンダリモーションをシミュレートするとともに、末端に「エッフェル塔」を追加しました。ファーンズワース氏は言います。「CFX部門で同じリグを使ったのは最高でした。クモの糸と布の相互作用が可能になります。CFXの完了後、クモの糸はHoudiniでプロシージャルに処理されました。バリエーションに応じて、中心の糸の周りにらせん状の糸が追加されたり、エッフェル塔がスタイライズまたはカスタマイズされたりしました」

Houdini は迅速なイテレーションを可能してくれるうえに、パラメータを少しいじればバリエーションができます。Houdiniがなければ、絵画のように抽象化した葉を配置するのはずっと難しかったでしょう。

イアン・ファーンズワース氏 | FX スーパーバイザー


クモの糸はHoudiniで作成され、オリジナルのセットアップをベースにバリエーションが作られている



森のシーンでは、Imageworksは葉の作成にHoudiniを使用しました。映画の他のシーンと同様、森林の樹木の見た目もスタイル化されています。ファーンズワース氏は言います。「数千枚の葉を手動で配置して目的の見栄えを作るのは、効率的とは言えませんでした。「私たちが持っていたアートワークは、まるで葉が単独で浮かんでいて、まるでアーティストが軽いタッチでそこに置いているように見えました。そこでHoudiniを利用して、樹木のすべての葉を散らし、配置し、彩色することにしました。Houdiniは迅速なイテレーションを可能してくれるうえに、パラメータを少しいじればバリエーションができます。Houdiniがなければ、絵画のように抽象化した葉を配置するのはずっと難しかったでしょう」



葉を散らし、配置し、彩色する作業にHoudiniが使われている



マンガに触発されたストリークによるキャラクタの動きの暗示



ドクター・オクトパスというキャラクタの触手、特に追加のワイヤと触手内部のジオメトリの生成にもHoudiniが使用されました。ファーンズワース氏は言います。「これらが必要になったときには、制作もだいぶ進んでいました。モデリング、リギング、アニメーションパイプラインと、全てのプロセスをもう一度たどる代わりに、Houdiniを使用してショットレベルで追加ジオメトリをすべて、プロシージャルに生成しました。大いに時間が節約できました。このセットアップは最終的には自動化され、アニメーションがパブリッシュされたときに実行しさえすれば、ジオメトリの作成とパブリッシュをし、レンダリングが実行されるようになりました」

墓石の土台、木の根元、乗り物やビルに積もる雪も、Houdiniでプロシージャルに生成しました。モーションブラーのかかったストリークエフェクトもHoudiniで作成しましたが、これは手描きの2Dマンガのアニメーションで使われているようなエフェクトを参考にしました。ファーンズワース氏は付け加えます。「マイルスとピーターが列車で街中を引っ張られるシーンでも、雪の筋に同様のテクニックを使用しました。スタイライズされた雪の概観は、Houdiniで作成したもので、本物のモーションブラーではありません。これらのエフェクトによってシーンにパンチが加わり、映画のコミックブックスタイルをしっかり表現できました」


コメント

  • Olaf Finkbeiner 3 年, 3 ヶ月 前  | 

    and even the Story of this movie is cool. If you have not seen it, do it now.
    It blew me away! Can't wait for the BlueRay to be released...

  • JohnDraisey 3 年, 3 ヶ月 前  | 

    Goddamn crazy, that's what the Imageworks team is. I love this article and the cool tricks they came up with in Houdini and Arnold. =]

  • DanTrip 3 年, 3 ヶ月 前  | 

    One of the best movies of the year not just for the VFX and art direction, but story too. Going to check for BlueRay pre order now!

  • nicholasralabate 3 年, 2 ヶ月 前  | 

    it is a shame this wasn't nominated for best picture, it was like injecting neon-coated optimism into your heart

  • FrankJ99 3 年, 2 ヶ月 前  | 

    In the caption of one of the images it says DMM was used for the dynamics. I wish there was more detail about that!

  • pgrochola 3 年, 2 ヶ月 前  | 

    FrankJ99 - We have proprietary plugins in Houdini that allows us to sim with DMM. We did use DMM in some shots - when Doc Ock throws Peter against the tables in the lab and some shots of the Prowler busting up Aunt Mays House. The majority of RBD work was simed using standard bullet in Houdini though!

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