Posted 5月 21, 2019
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1941年のアニメーションの名作をティム・バートンが実写化。この映画の主人公ダンボに観客が初めて出会うシーンでは、ダンボは干し草に覆われています。干し草のおかげで、この途方もなく可愛い赤ちゃんゾウは、観客の前に(そして映画内の登場キャラクターの前に)、ゆっくりと姿を現します。CGのダンボにかぶせた、MPC制作の干し草のエフェクトシミュレーションは、このゆっくりとした登場シーンで重要な役割を果たしています。



「ダンボ」より、登場シーン



エフェクトシミュレーションの概要

このショットには、世界各地のMPCスタジオのアーティストが参加しました。わらのモデルとテクスチャはMPCバンガロールで作成されました。バンガロールのアーティストは、シンプルなシェイプの大きいわらを5種類、複雑なシェイプの小さいわらを5種類、全部で10種類をMayaでモデリングしました。ダンボのアニメーションはMPCロンドンで作られ、これもやはりMayaです。わらのシミュレーションと、ダンボのまわりに散在する静止のわらはすべて、MPCモントリオールで、Houdiniを使って作成されました。ライティングはKatanaとRenderMan、合成はNUKEで、どちらもMPCモントリオールが担当しました。

Houdiniでのわらのエフェクトシミュレーションは、MPCモントリオールのFXリード、セバスチャン・テルメ氏が指揮をとりました。テルメ氏は次のように振り返ります。「この登場シーンのために、MPCロンドンが作成したダンボのアニメーション付きモデルとカメラをもらいました。第一段階は、わらのシミュレーションを作成する最初のパスとして、ダンボとの摩擦を考慮しない、一般的なシミュレーションを実行しました。このシミュレーションでは、すべてのわらがダンボのそばに落ち、まるでわらのカーペットのような自然な感じになりました」

登場シーンのために、MPCロンドンが作成したダンボのアニメーション付きモデルとカメラをもらいました。第一段階は、わらのシミュレーションを作成する最初のパスとして、ダンボとの摩擦を考慮しない、一般的なシミュレーションを実行しました。このシミュレーションでは、すべてのわらがダンボのそばに落ち、まるでわらのカーペットのような自然な感じになりました。

セバスチャン・テルメ | MPC FXリード

わらのシミュレーションはすべて、基本のポリラインシェイプを使った、シンプルなワイヤシミュレーションでした。テルメ氏のセットアップは、ポイントで構成された球がベースでした。各ポイントは属性IDを持ち、ポイントには「for each」が接続されました。テルメ氏によれば、このテクニックは高速化に加え、必要に応じてわらを個別に除外できることがメリットだったそうです。 

テルメ氏は続けます。「ポイントはわらと置き換えます。ポイントごとに、わらを表すポリラインを作成しました。2回目のパスでは、ポイントごとにわらの高解像度モデルを作成しました」 

「シミュレーションには、低解像度モデルのわらを使いました。ポリラインのワイヤシミュレーションが完了したら、3番目の「for each」ループでPointDeformノードを使い、低解像度ポリラインモデルを高解像度モデルでラップしました」と、テルメ氏は続けます。

並行して、テルメ氏は静的なわらのセットアップを構築しました。こちらはシミュレーションなしで、ダンボにくっついているわらです。「単純に、モデルのシェイプをベースにわらを散らしただけです。モデルに食い込んだわらをすべて選択し、単純なVDBシステムで皮膚の表面に押し出しました。わらとの衝突用に、ダンボのモデルをVDBに変換しました」

最終版の登場シーンでは、フレーム内の現実のわらは、草とダンボの背後の傾斜版の上にある数本だけです。事実、このショットではオリジナルプレートから残っているわらは10本もありません。 



ダンボがわらと一緒に映るショットは、いくつかある



わら:エピックプロジェクト

MPCモントリオールのFX部門は、いつもわらのことを考えていました。テルメ氏によれば「ダンボの制作は1年半にもおよびましたが、最初から最後まで、わらのショットばかりでした」

たとえばテルメ氏は、地上、球、チューブをベースに初期の構築テストを済ませると、2か月かけて、わらのビヘイビアと摩擦のテストを繰り返しました。すべてのシミュレーションに約3週間を費やし、シミュレーション1回あたりの計算処理には2〜4時間を要しました。 

約20人のアーティストが、わらに関わりました。わらには、いくつものタイプがあります。ボリュームアヴェクション(advection)によってダンボの周囲を舞うわら、水に接して濡れたわら、母ゾウがダンボを水浴びさせるときに皮膚を滑り落ちる濡れたわら、ダンボが地上すれすれに飛ぶときにフィールドのフォースによって舞う地上のわら、それに映画に登場するほかのゾウたちのシーンに使われた静的なわらも対象です。

テルメ氏はメインのわらシミュレーションを担当し、ほかのアーティスト2人はダンボの静的なわらを担当しました。「この映画には、約20人のアーティストがわらに関わりました。わらには、いくつものタイプがあります。ボリュームアヴェクション(advection)によってダンボの周囲を舞うわら、水に接して濡れたわら、母ゾウがダンボを水浴びさせるときに皮膚を滑り落ちる濡れたわら、ダンボが地上すれすれに飛ぶときにフィールドのフォースによって舞う地上のわら、それに映画に登場するほかのゾウたちのシーンに使われた静的なわらも対象です。」

「生まれたばかりのダンボのショットでは、ダンボは羊水のような液体で濡れています。濡れた皮膚にまとわり付く、静的なわらの適正量を見つけようと、何度もイテレーションしました。静的なわらは、シミュレーションの承認をもらった後に完成させました」



わらのシミュレーションを使った最終ショット



ダンボのアニメーションとの調和

わらのシミュレーションを「納得のいくもの」にするために重要だったのが、ダンボの全体のアニメーションとの共同作業でした。幸いなことに、ダンボと干し草が絡むショットは初期の予告編で必要とされました。「アニメーションのブロッキングは迅速に作られ、クライアントもティム・バートン監督も早々に承認していました。この共同作業はとてもスムースでした。通常なら、アニメーションやクロスシミュレーションによる皮膚や耳のテクニカルアニメーションの変更の影響を受けるものですが、それなしにシミュレーションを調整する時間を持てました」と、テルメ氏。


わらのシミュレーションで最も難しかったのは、耳のクロスシミュレーションに馴染ませることでした。ダンボの耳はとても薄く、動きはとても複雑で、アートディレクションにしたがって作られていたからです。「そこで、私たちはシミュレーションを何度かに分けて行い、すべての要素を最後に統合することにしました。各シミュレーションは、それぞれダンボの一部分だけに対応しています。シミュレーションを分割して行うことで、VFXスーパーバイザーのパトリック・レッダは『右側はいいね、左側はよくない』などと言うことができたわけです。そのようなときには、右側はいじらずに、左側を修正することだけに集中しました」と、テルメ氏。



ダンボがわらと一緒に映るショットは、いくつかある



わらのアートディレクション

わらは、ダンボの周囲に「ランダム」に舞っているように見せておき、最終的には所定の場所に「落ち着かせる」必要があります。テルメ氏は、セットアップを作ってしまえば、ゾウをわらで覆うのは比較的簡単だったと言います。「特にシンプルな球や円柱でシミュレーションのテストをした後は、簡単でした。わらの重さ、摩擦のセットアップ、ゾウの速さの適切なバランスを見つければ、魔法が起こりました」

テルメ氏はこのショットのために、シミュレーションの小規模のイテレーションを実行しました。1回に使ったのは、約8,000本のわらです。「実施したシミュレーションの結果は、シンプルなポリラインです。わらのグループを分離するのも、選択したグループを除去するのもとても簡単でした」

登場シーンのショットは、12のシミュレーションを組み合わせています。各シミュレーションがそれぞれ、ゾウの一部に対応していました。このワークフローでは、わらの貫通による大きい問題は発生しませんでした。もちろん貫通もありましたが、わらが膨大な量なので、ほとんど目には付かなかったのです。

登場シーンのショットは、12のシミュレーションを組み合わせています。各シミュレーションがそれぞれ、ゾウの一部に対応していました。「このワークフローでは、わらの貫通による大きい問題は発生しませんでした。もちろん貫通もありましたが、わらが膨大な量なので、ほとんど目には付かなかったのです」と、テルメ氏。

アートディレクションが関係したのは、たとえば目を開いたときなどに、ダンボの周囲にわらがどう「落ちるか」でした。テルメ氏はこう述べています。「複数のわらをシミュレートしなおし、いくつかは耳の側面に、いくつかは2本のメインのわらにぶつかってから落ちるようにしました。シミュレーションを複数に分けて行ったので、顔の中央に位置するいわば「ヒーロー」ピースとなる小さいわらのグループを取り出すのは簡単でした。」

「そして、最初のアニメーションでは、少数のわらの摩擦をアニメートしなおしました。わらが絡み合ったときには、摩擦をなくすためにシンプルな球をアクティブにします。球との接触によって、滑り落ちるわらを正確にコントロールできました。このテクニックで、メインのわら2本をVFXスーパーバイザーが要求したフレームで、正確に落とすことができました」

最終的に、ロンドンのアニメーション部門で2本〜3本のわらをアニメートしました。2本の「ヒーロー」わらに続いて滑り落ちるようにしたのです。テルメ氏は、こうした方が簡単だったと言います。「この要求は、プロジェクトが終盤になってクライアントから出されました。制作のこの段階では、2本〜3本のわらを手動でアニメートすることが、最適かつ最も素早い方法でした」



わらの上から、飛び立とうとするダンボ



愛らしさを維持する 

わらは、ダンボを徐々に明らかにする登場シーンの重要な要素ではありましたが、MPCは、ダンボの最大の愛らしさを損ねないように気を付ける必要もありました。 

「ティム・バートン監督は、完全に自然であり、なおかつアートディレクションが可能な状態を求めました。わらに関する最大の難問は、わらの折れ曲がりや摩擦を管理できる、完璧なセットアップを見つけることでした。ダンボでは、約400ショットでCGのわらを作成しました。私の役割は、最も安定して、リアルなセットアップで、膨大なショットを管理できるセットアップを構築することでした」と、テルメ氏。

「そこで、アーティストが繰り返し修正するパラメータをすべてプロモートしました。こうすれば、アーティストはHoudini Coreのライセンスを使えます。ダンボあるいはそのほかのキャラクターの上に球を置いてシミュレーションを実行し、余計なわらを取り除くだけで、ほぼ完成です。シンプルであることは、いつでも最善です!」




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