MOANA 2

 WALT DISNEY ANIMATION STUDIOS

ディズニーによる壮大な長編アニメーション映画「モアナと伝説の海 2」では、機知に富んだ航海者モアナ (アウリイ・クラヴァーリョ) が、陽気で豪快な半神半人マウイ (ドウェイン・ジョンソン) と再会し、オセアニアの海へと先の読めない危険な航海に乗り出します。祖先の航海者たちからの思いがけないメッセージに導かれ、モアナは故郷モトゥヌイ島を旅立ち、長く失われていたモトゥフェトゥ島を求めて危険な海域へと向かいます。海の民のつながりを取り戻したいという願いを叶えるには、呪いを解くしかありません。

「モアナと伝説の海 2」のストーリーは 46 のシーケンスで構成され、そのうち約 4 分の 3 に複雑な水の環境が登場します。舞台となるのは、緑豊かな南国の海岸、急流、流れ落ちる滝など。さらには広大な海も登場し、穏やかな凪の状態から、ビューフォート風力階級 7 に達する強風によって激しく荒れる様子まで描かれました。エフェクトアニメーション部門を率いる Dale Mayeda 氏はこう述べています。「「モアナと伝説の海 2」は、私たちにとって過去最大かつ最も壮大なエフェクト作品です。全 1,726 ショットのうち、1,269 ショットにエフェクトが用いられています」

エフェクトチームの挑戦は自然現象のシミュレーションにとどまりません。「モアナと伝説の海 2」のストーリーは、エフェクトチームを魔法の領域へと引き込みます。まず、主人公たちは、魔法の川や滝が流れる巨大な二枚貝の内部へと海流によって運ばれていきます。そして物語の終盤、彼らが立ち向かう最終的な試練は、直径およそ 2 マイル(約 3.2 km) のスーパーセル (巨大積乱雲) を取り巻く、まるで意思を持つかのような嵐です。「嵐の目は、幅 4 分の 1 マイル (約 400 m) の巨大な 3 本の竜巻によって守られています。その周囲はさらに、攻撃用の竜巻 8 本が取り囲んでいます」と、Mayeda 氏。この荒れ狂う嵐に、極めて強力な稲妻の閃光を緻密に組み合わせたことで、全体の激しさがいっそう高められています。

海と陸とが出会う場所

映画序盤のシーケンスの多くは、美しいモトゥヌイ島が舞台です。この島の海岸線には、砂浜から岩礁まで、多様な地形があります。高品質なシミュレーション結果を維持しつつ、自動化を最大限に活用するため、エフェクトチームは、高い柔軟性を備えたリギングシステムを開発し、必要なトポロジーを生成しました。アーティストたちは環境の種類に応じてジオメトリ構築手法を使い分け、キャラクタ部門やプロップ部門から提供されたコライダーを相互作用に向けてセットアップしました。最終的なジオメトリは、後工程で問題が生じないよう、クリーンかつ水密 (オープンエッジやつながっていないサーフェスが存在しない状態) でなくてはなりません。

エフェクトリードの Zoran Stojanoski 氏は語ります。「FLIP シミュレーション用の効率的なワークフローを構築するため、海岸線のリグには Houdini の強力なツール群を利用しました。柔軟性と制御性を高めるため、カスタムアトリビュートも組み込んでいます。」このリグは、幅広いショット要件に対応できるよう設計され、異なるシミュレーション解像度やさまざまな領域サイズを扱えるようになっています。

本物らしさとビジュアルの説得力を高めるため、チームは太平洋の島々の海岸線を詳細に分析しました。「太平洋のサンゴ礁の多くは、天然の防波堤として機能しています。波は岸に到達する前にエネルギーを減衰させ、その結果、泡や乱流といった海水の特徴的な挙動が生じます」と、Stojanoski 氏。この調査結果はシミュレーションのパラメータ設定や泡の生成に反映され、高い精度とリアリティの向上につながりました。さらに、次のように続けています。「メッシュ化のプロセスでは、独自開発ツールと Houdini のツールを組み合わせ、統合された水のメッシュを構築しました。特に、引き波 (バックウォッシュ) とビーチのジオメトリをシームレスに統合することが重要でした。Houdini のプロシージャル機能は、メッシュとウェットマップをブレンドするためのマスク生成で重要な役割を果たし、水と陸地の境界を自然に馴染ませることができました」

チームは、モアナの村の前に広がる全長 800 メートルの海岸を、各シーケンスのロケーション検討の要件に合わせて、扱いやすいセクションに分割しました。「分割したことで、FLIP シミュレーションの対象エリアを小さく抑えられました。その結果、シミュレーションは軽量かつ効率的になりました」と、Santiago Robles 氏。エフェクトチームはレイアウト部門に対して、利用可能な海岸セクションすべてを 3D マップ化したバリアントも提供しました。アーティストはロケーション検討の段階でバリアントを容易に可視化し、選択できます。エフェクトチームは、各シーケンスの要件に応じて、シミュレーションセクションを随時追加で作成していきました。

「この新しいワークフローにより、パイプラインが大幅に最適化されました。キャラクタや舟との相互作用がないショットについては、エフェクト部門が関与する必要がなくなったのです。相互作用が必要な場合でも、アクションがある領域のみをシミュレートし、海岸線アセットの生成に使用したものと同じスペクトルおよび上流工程の部門から提供されるタイミングを再利用することで、プロセスを効率化できました」と、Robles 氏。

水専用のワークフロー

制作初期の段階で、Disney Animation のエフェクトチームは重要な判断を迫られました。「モアナと伝説の海」のために開発した独自のソルバを引き続き使用するか、標準化された Houdini ベースの水のワークフローへ移行するか、という選択です。検討にあたっては、2016 年の前作公開以降に積み重ねられてきた、多数の技術的進歩が考慮されました。

「前作では、“Splash"と名付けられた独自開発の水ソルバに加え、大量に必要となった海や舟の航跡のショットを実現するレベルセット合成パイプラインを開発しました」と、Mayeda 氏は振り返ります。Fluxed Animated Boundaries をはじめ、チームが開発した手法の一部は、後に Houdini の FLIP ソルバに組み込まれました。「こうした技術の進歩により、Houdini ソルバをそのまま使えるようになりました。また、従来のレベルセット合成パイプラインに代わり、自社開発の CSG (Constructive Solid Geometry) レンダリングソリューションを採用したことで、局所的なシミュレーションと広域の海洋をブレンドできるようになりました」

エフェクトスーパーバイザーの Santiago Robles 氏は付け加えます。「あのソルバは、当時としては画期的でしたが、その後の作品で広く使われることはありませんでした。また、今作のチームは、前作に参加していないアーティストが中心だったという事情もありました」

Houdini の FLIP ソルバと Ocean ツールを採用したことで、作業効率が大きく向上しました。ワークフローが業界標準に即したものとなり、独自開発ツールにつきものの教育コストも軽減されたからです。「Houdini 19.5 のリリースが、私たちの判断をさらに後押ししました。TMA スペクトルモデル、Shallow Water ソルバに加え、FLIP SOP の境界条件、ドメイン、アップレズ (高解像度化) といった機能強化が導入されたからです。このような進歩があれば、本作の野心的な目標を達成するための柔軟性と効率性を十分に確保できるはずだと確信しました」と、Robles 氏。

アニメーションとレンダリングの整合性を確保するため、エフェクトチームはレンダリング時に使用するベクターディスプレイスメントマップとして海のバリアントをベイクしました。「このアプローチにより、水平線まで広がる高解像度の海が、アニメーションで見えるものと完全に一致することが保証されました。その結果、パイプライン全体で、一貫性のある高品質なビジュアルの基準を維持できました」と、Robles 氏。

Ian Farnsworth 氏は次のように述べています。「嵐のシーケンスに登場する巨大な波のビジュアル化には、Houdini Engine が役立ちました。レイアウト段階で Wave Deformer を作成し、それをアニメーション部門へ渡し、さらに Houdini での作業に引き継ぎます。エフェクトアーティストが必要な調整を加え、メインの海面に統合してから、シミュレーションを重ねていきます」

海面のメッシュ化の効率アップに貢献した Houdini 機能が、もう 1 つあります。「SideFX は、私たちが使用する Houdini のバージョンに Remesh to Camera ノードをバックポートしてくれました。エフェクトにシミュレーションを利用するショットでは、高解像度ジオメトリをベイクしておくほうが、レンダリングが高速になると分かったのです。レンダリング時にサブディビジョンやディスプレイスメントを再実行する必要がほぼないからです」と、Farnsworth 氏。チームは、最適化された USD ファイルとして海のジオメトリをあらかじめキャッシュ化し、シーンがレンダリング可能な状態になると、SOP と LOP の間の余分な工程をできる限り排除しました。また、前作から進化した海のエフェクトが泡と水しぶきです。「Hyperion チームが、USD ポイントの直接レンダリング、メッシュおよびポイントに対する加速度ブラー、そしてボリュームに対するスペキュラハイライトなどを実装してくれました」

水のシミュレーションのパイプラインには、膨大な量のデータ処理が伴い、そのすべてがイテレーションのたびに生成および保存されます。これに付随する読み書き処理は負荷が高く、重大なパフォーマンス上のボトルネックになる可能性があります。エフェクトリードの Sujil Sukumaran 氏はこう述べています。「この課題に対処し、ワークフローを効率化するため、最終的な出力品質を損なうことなく、ディスクへの書き出しデータ量を最小限に抑えることを優先しました。この目標の達成には、Houdini の VDB ツールセットが重大な役割を果たしました」

フラスタムベースのラスタライズを利用することで、エフェクトチームは、ボクセル生成の対象領域をカメラの視野範囲に限定することができました。その結果、不要なデータ出力が劇的に削減されました。「さらに、16 ビット精度のフォーマットも採用しました。ビジュアル品質を維持しながら、ファイルサイズを大幅に減らすことができました。また、VDB Points の活用により、まばらなパーティクルデータの簡易表現が可能になり、さらなる効率化を実現できました」と、Sukumaran 氏。こうしたワークフローの組み合わせにより、ディスク容量を節約できると同時に、イテレーション時間も短縮できます。データを最適化しなかった場合と比べて、レンダリングとシミュレーションがはるかに高速になりました。

ロープの挙動を知る

本作のアクションの多くは外洋が舞台で、特にモアナのカヌーを中心に展開します。エフェクトチームは、舟と水の相互作用を表現するためにさまざまなツールや技術を駆使しました。その中には、航跡のエフェクトを生成する、高度に自動化されたリグも含まれています。この航跡リグには高い柔軟性が求められました。モアナのカヌーだけでなく、ほかの舟にも対応でき、穏やかな凪 (なぎ) の海から荒れた嵐の海まで、幅広い海況で機能する必要があったからです。

新しいロープリグの中核となるのは、ロケータの位置情報を入力として受け取り、それらの間にカーブを生成し、プロシージャルな UV のパラメータ化によってそのカーブにロープをスキニングするシステムです。「各ロケータは“固定する"か“しない"かを切り替えられます。これにより、アニメータは必要に応じてロープをキャラクタの手に固定したり、ロケータによって滑るように動かすこともできました」と、Farnsworth 氏。さらに、ロープの長さを一定に保ち、引き伸ばされるのを防ぐため、チームは VEX のカテナリーソルバを組み込みました。「これで、シミュレーションなしに、ロープが自然にたわむ様子をプロシージャルに表現できるようになりました」さらに、ロープがピンと張ったり、だらりと垂れ下がる様子をアニメータが確認できるよう、可視化オプションも追加されました。

航跡とカヌーの水しぶき

本作のアクションの多くは外洋が舞台で、特にモアナのカヌーを中心に展開します。エフェクトチームは、舟と水の相互作用を表現するためにさまざまなツールや技術を駆使しました。その中には、航跡のエフェクトを生成する、高度に自動化されたリグも含まれています。この航跡リグには高い柔軟性が求められました。モアナのカヌーだけでなく、ほかの舟にも対応でき、穏やかな凪 (なぎ) の海から荒れた嵐の海まで、幅広い海況で機能する必要があったからです。

レイアウトおよびアニメーションの工程では、アーティストたちはベイクした海面のジオメトリをリファレンスとして使用しました。Ocean Spectrum の情報は、USD データとしてショットとともにパイプラインで受け渡されます。エフェクトリードの Deborah Carlson 氏は次のように述べています。「カヌーのショットがレイアウトとアニメーションの工程を通過した時点で、エフェクト部門には舟の航跡エフェクトの初期バージョンを自動的に実行するのに十分な情報が揃います。」その後、リグによってフリップブックの画像とフルレンダリングが生成され、チームは結果を即座に確認できます。「アーティストがショットに着手する前の段階で、どこが機能しているか、どこに手動の調整が必要かという明確な指針を持つことができました。また、Houdini の SOP にある FLIP Configure Ocean Layer ツールは、カヌーの航跡のベースシミュレーションを、クリーンかつアーティストフレンドリーな状態でセットアップする理想的な基盤となりました」

海面に残る航跡に加え、舟は無数の水しぶきも生じさせます。全体の流れや動きをとらえる目的で、ベースとなる全体の FLIP シミュレーションを粗い解像度で実行し、船首と船尾で生じる細かなしぶきのディテールは高解像度の専用システムで補完しました。しぶきの生成処理を全体のパスから分離したことで、各システムを最適な解像度で実行できました。

Sham Kalamba Arachchi 氏は次のように述べています。「この放出用のセットアップを、私たちは“カヌースプラッシャー"と名付けました。スプラッシャーのシミュレーションは、ベースシミュレーションの速度情報を利用し、カヌーが水を押しのける位置でしぶきを発生させます。ショットの要件に応じて、しぶきの強さや方向をクリエイティブな意図に合わせて調整できるよう、アートディレクション可能なコントロールも用意しました。」アーティストは Ballistic Path SOP を使い、放出の軌道をプレビューできます。さらに、FLIP の代わりに軽量な POP パーティクルを使用するモード切り替えも実装されました。このアプローチにより、計算負荷の高い FLIP Solver を実行する前に、水しぶきの大まかな範囲や方向について、ほぼリアルタイムのフィードバックが得られました。

スプラッシャーの機能をさらに拡張し、アーティストたちはセカンダリ要素を重ねていきました。大きい水の塊から、空気力学に影響される細かな飛沫へと移行する過程を滑らかにつなぐためです。「しぶきのメッシュ化には POP Fluids を使用しました。これらは中間的な形状で、表面張力によって小さな水の塊がまとまりを保った状態です」と、Arachchi 氏。それと並行して、チームはしぶきのポイントを弾道パーティクルとしてシミュレートしました。「この方法により、風や空気力学に対する応答性が向上し、霧状に霧散していく感覚をうまく表現できました」

しぶきや霧の要素は水面に戻るとすぐに泡に変換され、ベースシミュレーションの速度フィールドによって移流されます。流体全体の動き、スプラッシャーによるディテール、しぶきのメッシュの変化、弾道を描く霧、そして泡としての取り込みまで、すべてのレイヤーを統合することで、カヌーと水との相互作用を一体として表現するシステムが構築されました。大規模なダイナミクスから、精緻なクローズアップまで、スケール変化に対応した自然な連続性が実現しています。

巨大な二枚貝

目的地を目指すモアナと仲間たちは、途中、島と見まがうほど巨大な二枚貝に遭遇します。貝が開いて周囲の海水を吸い込み始め、殻の中へカヌーを引き寄せていくと、その錯覚は打ち破られます。

エフェクトチームが直面した最大の課題の 1 つは、巨大な二枚貝へと流れ込む、説得力のある海流の作成でした。しかもそれは、川のように振る舞いながらも、川に見えてはならないわけです。「幅広いスケールに対応できる、柔軟性の高いアプローチが求められました。約 250 平方メートルにおよぶ広大な海域から、わずか 2 平方メートルほどの局所的な領域にまで対応する必要があったのです」と、Stojanoski 氏。この柔軟性を実現するため、チームは、低解像度シミュレーションを用いて対象領域のサイズ、位置、影響範囲を特定するリグを開発しました。「流れを制御するリグは、ガイドカーブを利用しています。カーブはアーティスティックな制御のために手描きすることもできれば、環境のトポロジーに基づいてプロシージャルに生成することも可能です。これにより、水流は周囲のジオメトリに自然に沿うようになります。」アーティストは目的に応じて、どちらかの方法を選ぶことも、組み合わせて使用することもできました。

低解像度シミュレーションで十分な結果が得られたら、アーティストたちは Houdini の FLIP アップレズ (高解像度化) ワークフローを利用して、最終的な水の相互作用をシミュレートしました。この工程では高解像度のコライダーを使用し、ディテールを大幅に増やすことで、水の繊細な挙動をとらえます。「この段階ではさらに、ショットごとのカスタムフォースも導入し、クリエイティブ上の意図に沿って最終結果を制御しました。このようにして、シミュレーションをアーティスティックなビジョンに一致させています。また、高精細な領域で解像度を最大にするために、独自のメッシュ化ツールを組み込んだカスタムワークフローも開発しました」と、Stojanoski 氏。

このアプローチは、引き波とビーチのジオメトリをシームレスに統合することに重点を置いた海岸線のワークフローとは基本的に異なりますが、中核にあるツールセットは共通です。「巨大な二枚貝のシーケンスでは、渦速度 (vorticity)、速度 (speed)、深度 (depth) といったシミュレーションパラメータに基づいて、解像度を動的に適応させることが課題でした。これが可能になれば、高解像度で処理すべき領域を特定し、それ以外の海域についてはメッシュ化処理を軽量かつ効率化できます」と、Stojanoski 氏。さらに、アーティストたちは同じパラメータを用い、白波や泡の生成に適したポイントを特定したり、後にウェットマップ生成に利用するための、コライダー付近の水の領域を割り出したりもしました。「この統合されたセットアップにより、水との相互作用が海岸付近でも外洋上でも、一貫して扱えるようになりました。技術的な精度とアーティスティックな柔軟性を両立させたパイプラインが実現したのです」

白波には、特有の課題がありました。シミュレーション領域のサイズがショットごとに大きく変わるからです。最優先事項は、どんなスケールでもビジュアルの一貫性を保つことでした。「Houdini のプロシージャルなアプローチが必須でした。わずかなパラメータ調整でシステムをシームレスに適応させられる能力は、ほかにはありません。シーケンス全体を通して、効率性とアーティスティックな制御の両立が可能になりました」と、Stojanoski 氏。

シミュレーションメッシュを広域の海洋環境にシームレスに統合するため、チームはビューフォート風力階級に基づくスペクトルによって駆動される外洋のセットアップを活用し、海況に応じた現実味のある波の挙動をシミュレートしました。「従来のスティッチングテクニックでは、目に付くアーティファクトや不一致が海面に生じることが少なくありません。そこで私たちは、CSG アプローチによるレンダリングに移行しました。シミュレーションによるメッシュと周囲の海域をクリーンかつプロシージャルに統合し、波の動きやシェーディングの連続性を確保できました」と、Stojanoski 氏。その結果、高い詳細レベルのシミュレーションを保持しつつ、外洋と自然にブレンドされた、一体化した水面を得られました。この手法は、ショットのスケールや複雑さに関わらず機能します。

エフェクトチームは、レンダリング時にサブディビジョン処理を実行するより、最終品質のメッシュをレンダラーに渡すほうが効率的なケースが多いことに気付きました。「Remesh to Camera ノードを利用して、最終品質のメッシュをより高速に生成する、シンプルなワークフローを開発しました。さらにこれを Solaris の軽量なプロキシジオメトリのセットアップと組み合わせると、ビューポート上では海のメッシュをほぼリアルタイムで可視化し、最終レンダリングに高解像度メッシュを渡せるようになりました」と、Stojanoski 氏。

再利用性は、エフェクトワークフローの重要な要素でした。「巨大な二枚貝が背景に表れるショットでは、水との複雑な相互作用は必要ありません。そのような領域には、広域のシミュレーションキャッシュを効率的に再利用できました。追加のシミュレーションが大幅に減り、制作工程が効率化され、シーケンス全体を通してビジュアルの一貫性を維持できました」と、Robles 氏。

やがてモアナは巨大な二枚貝の中に引き込まれ、その奥深くを流れる河川網に吸い込まれます。エフェクトチームは事前にシミュレートした川のパッチを使ってモジュール化したライブラリを構築し、川を表現しました。緩やかな流れから激しい急流まで、さまざまな状態のパッチが用意されました。「これらのパッチを組み合わせて環境が構築されるので、大規模なシミュレーションを一括で実行する必要はありません。さらにレンダリングに CSG を利用すればパッチをつなぎ合わせる必要もなく、継ぎ目も完全に排除できました。また、パッチは障害物に合わせて変形させたり、キャラクタの演技や音楽のビートに合わせてアニメーションさせることも可能でした」と、Arachchi 氏。流れが変化する場所では、接続部分に白波のシミュレーションを重ねました。

海と同様、カヌーと川の水との相互作用にも現実感を持たせることが重要でした。「舟の前後にできる航跡には、高解像度の FLIP シミュレーションを重ねました。ベースとなる川のパッチに着水すると、それらは白波に変化します。また、いくつかのヒーローショットでは、高解像度の白波のシミュレーションを局所的に実行し、川のパッチのルックをさらに洗練させました。クローズアップに必要なディテールは、このようにして補いました」と、Arachchi 氏。

パールとポータル

モトゥフェトゥを探す旅の重要なある局面で、モアナは魔法のポータルを開きます。謎めいた半神の女神マタンギ (アフィマイ・フレイザー) は、この魔法の通り道が「モアナと仲間たちにとって、目的地への近道になる」と言います。

そのポータルは「パール」と呼ばれる揺らめくような巨大な球体に守られています。何度もデザイン検討を重ねた結果、ボリューム、パーティクル、リボン状の要素が複雑に組み合わされ、パールの球体の内部でやさしく発光しながら渦を巻くデザインに落ち着きました。エフェクトスーパーバイザーの Marc Bryant 氏はこう説明します。「さまざまなボリューム要素やジオメトリ要素の生成に Houdini を使用しました。また、相互作用の必要がないショットにも容易に展開できるよう、リタイム可能なアセットとして構築しました」

モアナが見つけた後、パールはいくつかの役割を果たします。ある場面でモアナはその内部に閉じ込められ、やがてパールは膨張して渦となり、仲間たちを別の場所へと一気に運び去ります。「これらすべてのエフェクトに視覚的なつながりを持たせるため、状態が遷移している途中でも、形状や色を反映させたいと考えました。こうした場面はすべて Houdini で制作し、動きのベースには主に Pyro シミュレーションを用いました。また、ポータル内でキャラクタたちが舟に乗っているシーンでは、インスタンス化されたパーティクルやボリュームを使用した、よりプロシージャルなアプローチを採用しました。それでも、形状や色によるパールとの視覚的なつながりは維持しています」と、Bryant 氏。

嵐雲

嵐雲全体のルックを構築するため、エフェクトチームはスーパーセル (超巨大積乱雲) や竜巻の形成過程を研究しました。エフェクトリードの Jesse Erickson 氏は次のように述べています。「Houdini の Sparse Pyro ソルバを使用し、カスタムのフォースや浮力による調整を加えて、対流圏と成層圏の境界 (トロポポーズ) を近似しました。また、積乱雲特有の“かなとこ (アンビル) 雲"の形状を作るために、中央に逆回転する上昇気流を設定し、水平のレイヤーを加えています。このようにして、この雲が魔法的な存在であることを印象付けています」

モアナと仲間たちが嵐の中へ突入すると、緊迫感が高まります。「高い詳細レベルを保ちながら、メモリ効率に優れ、複数ショットに流用できるスケーラブルなアプローチが必要でした。そこで、嵐の下面になる正方形のパッチをシミュレートし、Volume Deform を使ってそこにねじりを加えることで、同心円状に複製できるようにしました」と、Erickson 氏。また、見た目の繰り返し (パターンの重複) を避けるため、シミュレーションを両面に施し、各インスタンスをランダムに反転させたり、時間をオフセットできるようにしました。「このアプローチにより、大規模なボリューム全体を再キャッシュすることなく、特定の領域への修正指示にピンポイントで対応できました。さらに、必要に応じてリングにねじりを加えると、ショットに渦巻くような動きが付加されます」

ナロの巨大な嵐の目の内側で展開されるシーンのために、チームは嵐の中心を通って上方へ抜ける、高速で動く長いボリュームのトンネルを作成しました。まず Houdini の Minimal Pyro Solver を用いてプロトタイプを作り、低解像度のフィードバックを素早く得られるようにしました。最終的な解像度での出力は、Sparse Pyro に切り替えて実行します。

回転する竜巻

ナロの意思を宿す嵐は、危険な竜巻に取り囲まれています。本来は海水を巻き上げるはずの竜巻が、自然の摂理に反して、渦を巻きながら下方向の海面へと伸びています。この大胆な現実の改変は、「ナロは竜巻を使ってモアナとその仲間たちに襲い掛かっている」という印象を強めています。

竜巻の挙動が確定すると、レイアウトチームは承認済みの“嵐の触手"をエフェクト部門に引き渡します。アーティストはこれをベースに Houdini で作業し、触手をレンダリング可能な竜巻に変換しました。この工程には、Houdini の新しいボリューム変形ワークフローが活用されています。

エフェクトリードの Jake Rice 氏はこのように明かします。「実のところ、竜巻の大半は 3D 空間でのシミュレーションではありません。あらかじめベイクした単一の竜巻のシミュレーションを用い、それを適宜変形させて配置しました。」ここでのシミュレーションは本質的には円柱で、アーティストはボリューム変形ワークフローによって、スケール変更やカーブの変形を加えています。「変形をガイドする入力として、アニメーションチームが作成したアニメーションカーブを使用しました。」ショットによっては、最終的なルックの調整のために追加のシミュレーションを加えたものもありますが、ほとんどはこのベイク済みの竜巻が十分に機能しました。

「下降する渦巻き」のコンセプトに説得力を持たせるには、竜巻がシームレスに環境に馴染んでいなくてはなりません。「私たちは、竜巻が水面に接触するポイントで、跳ね返り水やしぶきを生成する手法を考案し、それを“トルネードスカート"と呼んでいました」と、Rice 氏。エフェクトアーティストは、竜巻に対して、ショットごとに個別の“スカート"を生成しました。「霧のようなルックを得るために、Pyro シミュレーションと POP シミュレーションを組み合わせています。さらに、跳ね返りのシミュレーションにはすべての竜巻の力を合成したエアフィールドを適用し、さらなるフォースとディテールを加えました。これにより、全域におよぶ乱流と、近接する竜巻との連続性の両方を得られました」

竜巻が破断される描写が複数のショットに登場します。「幸いなことに、ボリュームデフォーマは速度フィールドも変形できます。ショットの途中で、変形されたベイク済みシミュレーションを受け渡し、速度フィールドを保持したまま、フルシミュレーションの竜巻に移行できました。マウイが稲妻のコアに打撃を与えたタイミングで、竜巻を崩壊させたり、消滅させることができます」と、Rice 氏。

稲妻の直撃

嵐の内部では、強力な稲妻は主役ではなく補助的な要素として機能します。すべてのボリュームコンポーネントをつなぎ合わせると同時に、主光源の役割も果たしています。嵐はナロの力の具現化であることから、チームは稲妻に対して、嵐の神に固有のデザインモチーフを組み込みました。サメを想起させる、山形の連なり (シェブロン) です。このモチーフが、この嵐は自然現象とはまったく異なる存在であることを強調しています。

エフェクトアニメータの Christopher Hendryx 氏はこう述べています。「稲妻の多くは、ボリューム要素の中に配置されています。これは、ドラマチックな逆光でディテールを際立たせるためです。また、マウイが竜巻のコアを貫く稲妻を 1 本ずつ断ち切っていくときに、竜巻がまだ脅威として残っているかどうかを、観客が視覚的に追いやすいという効果もあります」

頭上で嵐が荒れ狂う中、マウイは、海底に沈むモトゥフェトゥ島を釣り針で引き上げようとします。このとき、竜巻に代わって稲妻がモアナとカヌーに乗った仲間たちに襲い掛かります。それと同時に、アートディレクションにおいても、ナロのモチーフが目立つようになっていきます。

「稲妻そのものは、2 つの方法を使い分けて作成しました。ベースのセットアップはシンプルなカーブで、そこにアーティストが各種アトリビュートを付与します。提供された HDA を使う場合もあれば、より高度なカスタマイズが必要な状況では Wrangle を使いました。その後、これらのアトリビュートは最終的な HDA で処理され、レンダリング可能なジオメトリの生成や、アニメーション、色、明度などの制御に使用されます」と、Hendryx 氏。この柔軟なアプローチにより、単一の稲妻を素早くキーフレーム設定することも、数百もの稲妻をプロシージャルに一括制御することも可能になりました。

複数のシーケンスにわたって色の一貫性を保つことが不可欠でした。これを実現したのは、チェーンの最後にある HDA です。「5 つのシーケンスにわたって、稲妻の色相を徐々に変化させる必要がありました。濃いピンクから、青みがかった紫への移行です。これには現行のショットがシーケンス内のどこにあたるかを Python で判定し、その値を元にカラ―ランプを駆動するという、簡単な方法で対応できました」と、Hendryx 氏。

マウイが力を失い、タトゥーが消えていく様子を描写した重要なショットでは、チームはプロシージャルアニメーションを使わず、このショット専用の手法を採用しました。「シーン内のジオメトリに、手描きアニメーションを投影しました。この手法により、いくつかのショットで求められた、細かいデザイン要件に応えられました。これ以外の方法での実現は難しかったでしょう」と、Hendryx 氏。アニメーションはテクスチャとして書き出され、それをシーン内のジオメトリにマスクとして投影します。ステレオスコピックレンダリングにおいて正しい空間に配置されるうえに、ほかの稲妻と同じマテリアルを使用できるため、ライティング部門に渡す成果物の一貫性も確保できます。

モアナ、命がけのダイブ

映画のクライマックスに差しかかると、モアナは勇敢にも海へ飛び込みます。海底深く沈むモトゥフェトゥ島に触れ、ナロの呪いを解こうというのです。海底のシーケンスではモアナは言葉を発しません。ストーリーは、手の込んだエフェクトショットによって語られます。Marc Bryant 氏はこう話します。「監督たちはエフェクトチームと連携し、シーケンス全体の明瞭さ、ペース、トーンを慎重に設計しました。泡や気泡、水面といった要素については、手描きの指示 (ドローオーバー) とリタイミング可能なアセットの両方を使い、タイミング検証用の初期ビジュアルを繰り返し確認しながら調整しました。カスタムのエフェクト要素については、軽量なシミュレーションを実行しました」

エフェクトとその間の連続性について承認が得られると、チームはディテールに着手しました。「すべてが、その瞬間のストーリーやトーンに貢献しなくてはなりません。大規模な水のシミュレーションから、魔法の微粒子、スタイライズされた稲妻に至る、すべてがその意図に沿って使われます。複雑なショットも多くありました。例えば、嵐が晴れていくシーンでは、巨大な砕け波と上空の雲が魔法のように消え去ります。このようなショットは複数のエフェクトアーティストが協力してつくり上げました。シーケンスのアクションにタイミングを合わせると同時に、美しさと静けさを表現することが求められました」と、Marc Bryant 氏は振り返ります。